グローバル人材育成の専門機関「ユニバーサル・ブレインズ」。人事は戦略のためにある、という戦略人事論を基礎に成長企業を支援します。

グローバル人材育成。戦略人事のユニバーサル・ブレインズ。

〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町2-1-1 アスパ日本橋ビル312号

お気軽にお問合せください

03-6214-2238

受付時間

9:00~18:00

「人事部の役割」

imageCAHI23F6.jpg

人事部の役割は?と聞かれたら、
あなたはなんと答えるだろう。

多分あなたが、営業部所属のヒトなら「人事部?そんなの関係ねぇ」という感じだろうか。人事といえば、すぐ思い浮かぶ言葉といえば、給与・賞与、人事評価、人事異動という言葉が連想されるから、なんとなく鬱陶しくネガティブな印象しかないだろう。しかし、会社によっては、人事部は第2権力と思われていて経営の秘密の奥の院に近くに行けて出世の最終階段という印象をもつ人もいるかもしれない。どの道、「人事部?そんなの関係ねぇ」
 

ところで、関係ないかもしれないが、小島よしおの「そんなの関係ねぇ」の英訳というか試訳というか、とにかく翻訳があったので紹介すると“Who cares?” とか”I couldn’t care less.”(日経2008.1.19)という。むしろ英語のほうが「ガン!」というインパクトがありますね。

人事部の役割は?と聞かれて、私が思い出すのは、数年前のある日のできごとだ。

そのころ私は、ある外資系日本法人の人事担当役員で、シンガポールに地域の人事担当責任者(役員)が数十人一堂に集合しての会議があったときのことだ。今まで人事役員の国際交流や、顔を合わせるという機会があまりなかったので何事があったかといういぶかりと、何か面白い仕掛けや楽しみがあるのではと思って集まった人も多かった。
 

そこで本国の役員が、全員集合した各国の人事担当責任者に席上ひとりひとりに浴びせた質問が、「今年の当社ストラテジーは、何ですか?4つありますが、言ってみてください。」である。
 

思わず、各国人事担当役員同士顔を見合わせる。顔には、「人事に関係ない質問をするな、だから本社の人間は困るんだ!」と書いてある。指名されたヒトは、しどろもどろにあたらずとも遠からずのことをいい始めたが、その瞬間「オヤ?ヘンだぞ。」と気づく。「なぜこんな質問をするんだ?」
 

次の質問は、「今年のあなたの国(現地法人)のKPIは?」である。
 

KPIとは、Key performance indicator、つまり主要経営指標の数値のことだ。「そんなことを答える必要はない、それは営業やCEOの仕事だ」とみんなの顔に書いてある。が、ここまで来ると会場はシンと静まり返り緊張感が走る。
 

さらに次の質問は、緊張を緩めるように「あなたは、人事部に何年いましたか?」
 

参加者には10年選手やベテランもいるが、私のようについさっきまで違う分野のラインマネージャーだった人事責任者もいた。任務についたばかりの人事部門ではテクニカルスキルとして勉強しなければならない人事・労務マターは山積みだった。「いったい何を聞こうとしているのだ?」私は、KPIは答えられるが、人事部の新参者だ。いつ私の順番がくるのか、背中がむずがゆくなり、椅子からひざが前に出て、脳細胞はフル回転を始める。

imageCATUOPCG.jpg

本社役員のメッセージは続く。

「今までは、人事は人事でした。しかし、これからは、違います。人事は戦略の一部です。会社の経営目標を達成するのは、ヒトだからです。人事の役割は経営戦略の達成にいかにヒトの面で貢献できるか、の一点にあります。それなのに、会社全体の経営戦略や財務目標値という基本軸を知らなくてどのように人事を組み立てるのでしょう?そのようなヒトに当社の人事を任せることはできません。経営戦略実現に役立つようにヒトをトレーニングし、採用し、人事制度をつくり、リードするラインマネージャーを育成するか、その答えをだし、その説明ができることこそ人事部の役割なのです。」
 

「人事部に10年いても、それだけで価値があるのではありません。」
 

「各国に帰り、どのように人事部として経営戦略の実現に貢献できるのか、人事部長(HR Manager, HR Director)としてその答えを見つけてください。そして、それを聞かせてください。」

役割と貢献責任

人事部の役割が、もし経営戦略の実現への貢献だとすると、人事部に対する評価は、戦略実現への貢献度合いということになるだろう。だから、たとえば、営業部のマーケティングとセールス機能が十分でないために実績不振となっているのなら、営業部のマーケティングやセールス機能を強化するための方策を立案し実行することが人事部の仕事となるはずだ。
 

実際上、相前後して実施された国際人事カンフェレンスの主要なテーマは、外部講師を招いての各国人事役員同士で切磋琢磨する「営業センスの向上」ワークショップだった。
 

断っておくが、参加者は営業責任者ではない。人事責任者である。
 

さすがに畑違いという文句をいう参加者も中にはいたが、よく考えると、ある社内プロジェクトを立案実行する場合、そのアイディアを売り込み承認してもらう「社内セールス」は日常茶飯事だ。対外的な顧客だけでなく、「社内顧客」のニーズを満たすことも大切なので、人事部長に全く営業センスがなかったとしたら、たとえば人事制度の変更をしたくてもこれは敗因となる。ワークショップ終了後は、各国に戻って、人事責任者がこの「営業センスの向上」ワークショップの効果をどう上げたかが宿題であり、次回の国際人事カンフェレンスのテーマとなる、というわけである。
 

徹底して、直線的に、人事の経営戦略実現への貢献度合いが問われ続けることになる。

人事部の貢献責任と権限

人事部の役割が経営戦略実現への貢献だとすると、この責任を果たすためにできること、しなければならないことが、人事部のもつ権限となる。
 

これは、どういう意味か?そんなに幅広く、責任守備範囲の広い仕事なのか?それなら、人事部が営業現場で必要なラインマネージャーを自分で採用できるのだろうか?
 

答えは、否。そこまで、直接的ではない。現場は現場にまかせる、現場のスキルと経験値は現場にあるから。
 

しかし、人事はそれを見守り、理解し、それを現場が実現しやすくする具体的な手助けをしなければならない。人事部の役割は社内各部の仕事をやりやすくし、目的達成しやすくするようにヒトの面から支援することにある。
 

だから、人事部のパフォーマンスは、常に他の部からの批判的な眼に晒される、つまりどれだけ現場を理解し、現場のためにヒトの面から支援や「サービス」があったかが「社内顧客」である社内各部の対人事部評価そのものとなる。
 

このあたりになると、戦略人事が経営課題として屹立している経営が、いかに人事部の役割を変えていくかがよく見えてくる。HR manager, HR directorの見る社内風景は、CEOと同じ視点だ。

imageCAJWEM13.jpg

戦略人事の功罪

人事は戦略実現のためにある、という戦略人事の考え方は、人事の独立性だとか専門性だとかいう古い価値観と対立するものだ。そして、この考えかたは、従来型のベテラン人事部長の反発を買うことになることは容易に想像がつく。20年選手の大ベテラン人事部長に戦略人事の話をすると、眼が点になる。
 

しかし、それでも戦略人事を実行することで経営の果実を手にして成功できると、経営者CEOがそう確信するのなら、あくまで経営の成功がCEOの目標である以上は、古い価値観を捨て、社内の反発を排除してでも戦略人事を実施しなければならないだろう。そういう期待に答えられる「人事部長」人事や人事部構成を策定し実行しなくてはならない。
 

社内に、財務目標値を示して、スリム化してコスト削減し、IT化して、顧客満足度指標を上げて、そのように合理的に動きさえすればそれで目的が達成するのなら、経営はCEOというシナリオライター一人と筋書きどおりにいっているかどうか監視するCFOの二人のデスクワークとなる。
 

もしそうなら経営ほど、簡単明瞭なことはない。経営は一種の「操縦快感」である。複雑な機械である自動車を高速で走らせる、そういう機械の操縦と同じ快感だから。MBAとはこの操縦技術を教えてくれる教習所である、といえる。
 

しかし、経営のシナリオや戦略を実行するのは現場の実戦部隊であるなら、そのヒトたちが楽しく、エネルギッシュになり、働くことが面白くなければ、操縦不能となる。それだけの話なのだ。人事は戦略実現のためにある、という戦略人事は、ヒトが合理的に動いてくれることを前提にしている。そうは問屋が卸さないことはすぐわかる。
 

そこには相性だとか性格要因や、あのヒトのためならなんでもヤル(イヤ、あのヒトなら真っ平ごめん)などという不合理な(あるいは説明不可能な)動機が行動要因になることがあるのだ。その結果、チームの出力が半分以下になったり逆に倍化したりもすることは確かだ。
 

多分、そこまであえて考えを広げないのが、戦略人事の考えかたの強みであると同時に弱点だろう。だからといって、正確に性格を読んで相性のよいチームができれば戦略人事の考え方がなくても全てが解決し経営が大成功する、というわけでもない。
 

言えることは、合理的な考えを前提に経営する以上、人事は戦略実現のために価値があるのだ、と言い切ってしまって、それを実行することだ。そして、それにまつわる「諸問題」がでてきたら、対症療法で治療しながら先を走ることだと思う。何が重要かをハッキリさせることがまず大切だ。そして選択し、実行することが大切だ。

imageCA6XKUO2.jpg

人事は、経営のためにあるのか、
従業員のためにあるのか?

これも、人事が戦略実現のためにある、と言うとき必ず聞かれる質問だ。この質問は人事がどちらかを向いていなければならないという前提にたっているトリッキーな質問なのだが、こういう疑問は若手人事部員の中からさえも出やすいものだ。
 

今まで人事は従業員福祉や労務(労働関係のコンプライアンスと言い替えてもよい)を役割と心得ていただろうから、当然従業員や組合の方角を向いていて、経営には背を向けている(はずだ)と見られていた。
 

戦略人事の考えかたは、求める結果は同じだが方向性は真逆である。

それなら、戦略人事の考え方は従業員に不利なものなのか?
 

従業員福祉が大切なのも、労務コンプライアンスが重要なのも、それ自体に価値があるから実施するのではない。戦略人事の考え方では、すべからく従業員と定義されるヒトたちに快適に楽しくエネルギッシュに働く環境を用意しないと、経営がなりたたないから、だから、意識的にそのレベルアップをはからなくてはならない、だから従業員福祉や労務コンプライアンスのレベルアップに価値があるのだ、と目的的に考える。
 

いいかえると、戦略人事の考え方は、従業員の方向を向いていないどころか、働くヒトに正対して正面からその能率・スキル・モチベーションアップを図ることこそを使命としている
 

「社内顧客」の満足度を上げるよう努力するサービス部門として人事部を位置づける。その方向を向いていない人事部やサービスの効果が上がらない人事部は評価が低下する。人事部の実行するサービスでどれだけ職場で働くヒトの能率・スキル・モチベーションアップを図ることができたか、を毎年チェックすることになる。ちょうど営業部のヒトが売上目標値をどれだけ達成されたか毎年評価されるように。
 

だから、戦略人事の考え方は従業員といわれているヒトに不利などころか、真逆である。

imageCARK0LSK.jpg

人事部のアクションプランとは?

人事部は、経営の方向をよく知り、その方角と目標に合わせて、人事の目的とアクションプランを策定する。もちろん財務目標を熟知し(人事マンもBSとPLは読みこなせなくてはいけません。)その財務目標を達成するために営業部がどう成績アップのためのシナリオを書いているのかを知り、社内共通用語で語り、目標をラインマネージャーたちと共通目線にする。そしてその実現に最適な組織設計や制度設計をしなければならない。それが人事部の役割だ。
 

戦略実現のために必要な人材をどう確保するか、(外部からスカウトするのか内部からか、どのスキルセットが必要か、必要となる経験値は?に現場ラインマネージャーと協働で答えを見出す)それを外部であれば「採用し」内部であれば「研修」することが、アクションプランとなるだろう。
 

その人材要件の定義(どのような性格のどういうスキルセットの人材が必要か、マネージャ。ーとの相性)と達成時間軸(いつまでにその人材が確保できないと営業部の目標が達成できないのか)などを具体的に「決める」。(多くの人事部ではこの決め事をラインマネージャーに公開しないが、「合意」と「公開」は戦略人事を標榜するヒトの基本行動パターンだ。)
 

そして、実際に人材を「採用」し、「研修」したら、その効果を測定する、社内顧客であるラインマネージャーが評価する、評価度は成果度に一致させ、それが人事部の評価となる。
 

人事部のアクションの効果が財務的にも直接効果が見えることは少ないだろうからある程度定性的な評価になってしまうこともあるだろうが、とにかく人事部の選択したアクションを(完璧でなくてかまわない)評価することが大切だ。ヒトの能力向上と活躍度合いに「効果」があったなら、翌年度の「人事部予算」にこの採用と研修費用がコスト化(予算化)され、すべてヒトが支えているその企業の「持続的成長」をさらにその後も継続的に保証していくという戦略的循環プロセスをもたらすこと、それこそが戦略人事の考え方の帰結である。

imageCAIRCL1J.jpg

だから、人事部のアクションプランは、会社全体の経営つまり「中期事業計画書」の一部にキチンと書き込まれていなければならない。
 

日本企業の場合、今まで人事は独立的で専門的だというだけで単に人員計画として員数合わせの目標値だけが事業計画に現れるにとどまり、研修や社内サービス向上などの目的的な人事部のアクションプランと想定効果が事業計画書の中に書き込まれた例はおそらく皆無なのではないかと思う。
 

このことは実は見逃せない戦略人事論の副次効果である。
 

どういうことかというと、最近の日本企業は実は一皮めくると株主の過半が外国人ということが多くなっている。たとえば、日本興亜損害保険のサウスイースタン・アセット・マネジメントなど大手損保会社の筆頭株主(日経2008.1.19)には外資系投資ファンドが名を連ねている事実である。三井住友海上保険の筆頭株主は米ブランデスインベストメントパートナーズ(10.39%FujisankeiBusiness2007.11.10)であり、外国人株主が40%を越す大手日本社が多いのだ。今まで金融機関にはそういうことはなかったのに。
 

そこでは海外投資家に成長(ないし阻害)要因をきちんと説明をしなければならないのだ。IRなどで、成長(阻害)要因のうち商品性やマーケット性など基本的なマーケティング要素のそのまた基盤にあるヒトの養成問題は、新入学卒社員の35%が3年以内に退社するという統計(厚生労働省「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」2006.10)のある中、長期的経営課題としてどう対処するのか、また財務目標値達成に向けて当社が選択する戦略シナリオを説明した上でその事業戦略実現のための人材計画をどう設計したのかは、中期事業計画(経営方針)の中で、きちんと説明をしなければならない(はずである。)そうでなければ実現可能な合理的な経営をしているとはいえないからである。
 

戦略人事のアプローチ手法は、事業基盤の確立と戦略実行に直結するスキルセットとモチベーションをもった人材を、中長期的にどう確保するかを語るために必須の方法論なのである。

image.jpg

戦略人事の考え方がどれだけ有効か?

こうした見方で戦略人事を把握するなら、戦略人事の考え方はこれからの企業戦略にとって極めて重要な要素であることがわかるだろう。
 

グローバル化の中ではますますその意味は大きくなる。
 

そればかりではない。M&A、合併・買収、持株会社設立など経営統合の動きは、つねに「資本」と「組織(ヒト)」の結びつきが鍵となる。M&Aは、異なる「組織(ヒト)」統合プロセスとしても配慮しなければならず、そのとき戦略人事の考え方を使わなければ有効な事業戦略オプションを選択することさえできないだろう。
 

また、理念を共有し経営戦略を具体的なプロジェクトに落とし込み、目的達成のロジックを理解しそれを実現すること、それは(今はまだ)M&Aのさなかにいない企業にとっても、また、グローバル化していない企業にとっても、経営戦略をもつ企業にとっては必須の戦略人事の一場面である。
 

人事マンも、自社の経営戦略の構造がどうなっているのか、つまり企業戦略、機能戦略、事業戦略のそれぞれについて策定フローを理解しておくことが必要だ。

人事部長のあなたは、
自社の事業戦略を知っていますか?

参考文献:

キャプランとノートンの「戦略バランスト・スコアカード 」
ロバート・S・キャプラン (著), デビッド・P・ノートン (著), 櫻井 通晴 (翻訳)
私としては、この本は、理論の宣伝に過ぎ冗長で読みにくいが、古典的な意味は、今でも十分にあると思う。 分析的に人事を捉えなおし、戦略との紐付けを図る際には参考になる文献ではある。なお、中小企業や研究開発型企業、ベンチャー企業などの場合においてどうなのかについての検討がほしいところではあるが、初期の著作であり戦略と人事という非財務的要素との関係を述べた点で大きな意味を持っている。しかし、現実はそんな悠長な「分析」などをまっている暇はないのだ。とはいえ、この本で実用的な思考のフレームワークを得ることは大いにできる。

次はダイジョブからの引用です。

前回、「人事は戦略実現のためにある」という戦略人事の考え方がいかに現代の企業組織にとって重要かを述べたが、まだまだ戦略人事というコトバは一般的になっていないように私には思える。
なぜか?というと、そもそも戦略なんて当社にあるのか、という根本疑問だとか、たとえ戦略なるものがあったとしてもそれはシナリオにすぎず机上の空論で、そんなもので人事が動かされてたまるか、という反発が背景にあるのではないか、と思う。

人事部長も、本音としては、ヒトなんてわからない、どうせ合理的でないヒトの気持ちを使って戦略に従えといってもそれをどうしろというのだ、わからないものに人事部長としての責任をとらされてたまるか、だから人事は聖域、触ってくれるな、中立で独立なのだから、という気持ちがあるように思える。

「開発マネジメントは戦略に従う」

ところが、経営企画室という部門では、まったく正反対の考え方をする。つまり、まず事業戦略ありきで、その達成のために必要な人材を手配する、場合によっては、組織(ここでは体系的な指揮命令系統を定めた組織図やチャートのことをいう。)を変更することさえもいとわない。組織は「存在するもの」ではなく、「設計するもの」なのだ。朝令暮改にみえても、また、毎年組織変更するのでも、よしとする。

その一例を挙げよう。

多くの企業の場合、研究開発プロジェクトを社内にいくつも抱えることが普通だ。そこで今何が起っているか?

それは「内部の生存競争」だ。
 
つまり、複数の事業部門が多数の別々の開発プロジェクトを同時に走らせている。 しかも、5年計画で今始めたばかりで海のものとも山のものともしれない「種まきプロジェクト」のものから、3年計画の最後の年でもう実際販売がスタートした「収穫期のプロジェクト」まで、多種多様のプロジェクトを抱え込んでいるという現実がある。
当然、各プロジェクトは社内で予算と人材を「奪い合いながら」成果を出す必要に迫られる。(テルモ経営企画室佐藤慎次郎氏 日経2008年1月16日「十字路」)

ところが、経営企画室の認識としては、革新的な技術開発や事業開発をにない、引っ張ることのできる有能な人材はどの企業でも限られていると考えている。それならその有能なる人材をどこに重点配置するかについて、意思決定しなくてはならない。そこで、カネを配分するようにヒトも配分する必要がある。ヒトに仕事をあてはめるのではなく、仕事に合わせて、意図的に「動かす」つまり戦略にあわせて人事を取り仕切るのだ。だから、戦略が人事を決めていく、と考える。

そのような予算・人材の奪い合いの中では、「開発マネジメント」つまりこれら全体を「ポートフォリオ」として認識し、各プロジェクトに「適正な人材と予算を割り当てる」ことが戦略実現のカナメとなる。誰かが割り振りを決めなくてはならないのだ。まさに、「開発マネジメントは、戦略に従う」である。
 
人事部が戦略構築へ関与する?

では、誰が決めるのか?予算と人材の奪い合いの中で、事業目的からキチンと秩序立てて予算・人材の配分をすることは、人事部で行う作業だろうか?

それは事業戦略とその実現のプロセスを決定することであるから、経営企画部や取締役会・経営会議で決めることがらだろう。一般的には人事部で決定することがらではないといえる。その意味では、人事部は経営会議で決定された戦略とその実現プロセスに従い、それを忠実に実行する責任がある。それが人事部の戦略構築・実現への関与のあり方である。

もし、経営会議で短期業績重視の戦略を選択したのなら、有能人材についていえば、揺籃期ないし「芽を吹きかけた育成期のプロジェクト」からはヒトとカネは間引かれる結果となるだろう(前出日経「十字路」記事)。当然収穫期のプロジェクトを優遇し優先的に資源を傾斜配分するのが最も合理的だから。

そのとき、人事部は、人事の独立性や中立性を言い立てて抵抗するだろうか?そういう人事部がいたら、「KY」(空気が読めない)だろうし、それだけでなく、戦略実現に寄与できていない人事部という低い評価になってしまう。

イノベーションと戦略人事

では人事部は、経営会議の決定に対する単なる従属部隊にすぎないのだろうか?戦略の実行補助部隊というだけでなく、そもそも戦略構築のための寄与はできないのだろうか?

もちろん、一方的に従属するよう実行部隊として人事部の立ち位置を設計すればそうなる。それを決めるのもトップマネジメントや取締役会だ。しかし、人事部の立ち位置を、人材による戦略実現への最重要部隊と位置づけることもできる。そして、多くのグローバル企業はそう考えている。
現に、テルモ経営企画室の佐藤氏(前出、日経「十字路」記事)は、経営企画室長でありながら(だからこそ、というべきか。)勇敢な議論を展開する。つまり、今もっともカネを生み出す部分ではなく、むしろ逆バリで、あやふやかもしれないが夢がありイノベーションにより大きく将来成長できる「種」にこそ有能な人材を意図的に配置するべきだという戦略眼に基づく人材移転を強く主張している。大胆な成長戦略の考えかただ。

そして、同氏は、こういうことができないことが次世代技術に投資しながら成功果実を手に出来ない失敗パターンだとして、こうした罠を回避した米シスコシステムズの例を挙げ、名経営者ジョン・チェンバースの戦略眼に基づく大胆な人材配置がシスコの成功の陰にあったのだと、ハイテク・マーケティング論のジェフリー・ムーア氏の論文を引用している。マーケティングの分野では知られているキャズム(chasm)理論(後述注1参照)の人事分野への応用である。

しかし、そうはいっても、足元の業績が極端に悪いのに、利益をかろうじて生み出している部署から人を引き上げるのは、「蛮勇」だろう。(もちろん、テルモ社のことではない。)戦略的にどちらの選択肢をとるのが妥当かは正しい現状認識に基づいての合理的な判断といえるかどうか、によるのであって、抽象的な理論の是非にあるのではない。

「人事部の主張」

では、経営会議で、人事部長としてはどう主張するのか?

あまり自己主張せずに、そもそも佐藤氏の言う「有能な人材」とは具体的にどなたを想定されていますか?と単純無垢な質問をシレっと口にするのも手である。経営戦略実現の意図があっての発言であるから、おそらく具体的なケースを念頭においているはずである。例として具体的にA氏の名前があがったら、ではそのマッチングについて検討しましょう、任せてください、と話を引き取る手はある。

しかし、当のA氏が成熟期のプロジェクトを離れて、芽をふきかけたばかりの新技術プロジェクトに移って本当に貢献できるのかどうかは、おおいに議論が分かれるところだろう。有能人材が限られていてその争奪戦だというけれど、プロジェクトの「国替え」をして新チームで同等ないしそれ以上の実績を出すには、チームとの相性やA氏自身の「気持ち」も無視できない。モチベーションを上げるより、下げる環境は簡単に作れてしまうのだ。これでは逆効果になってしまう。私に任せてくださいと人事部長が大見得を切るのはちょっと早すぎる。

さまざまな選択肢

他にも、経営会議で、人事部長としての提案や主張は、いろいろある。

各種プロジェクトの洗替評価をして、どのプロジェクトが最も収益に貢献し効率的かの見極めをつけるのが先決で、それが決まればダメなものに早く見切りをつけて人的投資を切り上げるべきだ、と正面進攻作戦を主張するのもいいだろう。キャッシュカウとドッグ(後述注2参照)との見切りをつけろ、と選択・集中を迫る方法なのだが、こうなると全社戦略の見直し(洗替)なので、一人の異動にとどまらず、部やチーム単位にスクラップ&ビルドすることになる可能性が高い。

また、仮に現在の事業(商品)戦略が正しいとしても、なお予算配分の効率性の観点なるものを持ち出して、剰余金の10%を戦略的に人事に振り向けて(あるいはコスト削減を5%行い)、これを人材投資の原資にしてもらいたいという資本投下再配分を主張する方法もある。つまりは、A氏異動に手をつけない微温的対応なのだが、この原資を利用して、A氏以外で、同質の経験値をもつ優秀な人材を外部採用して新技術プロジェクトに迎え、A氏には今まで自分が関わってきたかわいいプロジェクトの成果をかりとるおいしいリーダー役をそのまま続けてもらい、A氏自身の達成感も満足させ、モチベーションを高く保ちつつ取りこぼしを避け確実に成果を入手して、人材投資によって全社レベルでの収益機会の最大化を図ろうという提案である。

このように「人事は、戦略実現のためにある」といっても、具体的な「道筋」はひとつではない。

いずれも優れて経営的な視点から説明ロジックを駆使して創造的に人事部長としての答えを出して(選択して)説明・提案していくことが必要となる。
 
テルモ人事部長の職にある方は、経営企画室の佐藤氏の意見に対してどのような主張や議論をされたのだろうか?
いや、そもそも経営会議に人事部長は呼ばれたのかどうか?
人事は戦略実現のためにある、という意識をCEOがもっているかどうかも多くの会社での試金石だといえる。

果たして妥当な選択か?

さて、前記の経営企画部や人事部の主張は、どれも間違いではない。どれを選択するかは経営会議で決めなくてはならない。どれを選択したとしても、妥当だと、言える。こうして、優先順位づけをして効率的に決めることが合理的であることは疑いない。

しかし、人間は理性と感情の両方を併せ持つ。
 
その選択が貴重な人的資源を有効活用できる唯一の方法であり、それで事業の成功確率も上がることは頭では百も承知なのだが、心の中では、何でなの?なぜ、Bプロジェクトが優先で、私のCプロジェクトがそうでないのか。あなたの言っていることはよ~くわかるが、わかっていても、納得できない、なぜなら、必ずこのCプロジェクトこそまだ誰も評価しようのない、信じられないような偉大な可能性を秘めているかもしれないというのに……。偉そうにしているがバカじゃないの?

そのようなとき、CEOや組織リーダーは、遠くの目的を共有させるだけでは足りず、具体的に皆の心に響く目標、やりがいのある目標を立て、メンバーの心をわくわくさせるような、みんなが(生理的に)納得できる目標を立てることが、仕事だ。
収益性目標からしても頭でも納得できるように目標を選定する必要がある。それが、CEOの役割だろう。そうしてはじめて戦略が人事を動かせるのだ。

ところで、みなさんは、あなたがもしCEOだったとき、どれが妥当な選択肢だと判定しますか?

(注1) キャズム理論=キャズムとは、主としてハイテク分野でのマーケティング理論で、「溝」を意味する。
よく知られているイノベーター理論(1962年、スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が著書“Diffusion of Innovations”(邦題『イノベーション普及学』)で、ロジャースは消費者の商品購入に対する態度を新しい商品に対する購入の早い順から、1.イノベーター=革新的採用者(2.5%)、2.オピニオンリーダー(アーリー・アドプター)=初期少数採用者(13.5%)、3.アーリー・マジョリティ=初期多数採用者(34%)、4.レイト・マジョリティ=後期多数採用者(34%)、5.ラガード=伝統主義者(または採用遅滞者)(16%)の5つのタイプに分類)した。
これをさらに分析しこのイノベーター理論の通説に対して異論を述べたのが、本文にもあるジェフリー・ムーアで、その度数分布曲線に潜む「乗り越えがたい溝」(キャズム)を指摘し、この溝を越えられない新商品はブレイクすることなくやがて市場から消えていく運命にある、とした。
なぜなら、アーリー・マジョリティは、「他の人も使っている」ことを判断材料に商品購入を決定するので、ほんの一部のアーリー・アドプターにしか採用されていないということは、アーリー・マジョリティに商品購入を踏みとどまらせる理由にこそなれ、商品購入のきっかけにはならないからである。そのため、溝を越えるには、アーリー・マジョリティ層へ一気に切り込み成功事例をつくること以外に方法はない、と主張した。

(注2) キャッシュ・カウとは、ボストンコンサルティンググループが開発した経営戦略策定のためのスキーム、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)にでてくる言葉で、「市場成長率の低い成熟市場で高い市場シェアをとった商品」のこと。事業をキャッシュ・カウにもっていき、キャッシュ・カウが生み出す利益で新商品に投資するというのが成長に向けたビジネス・サイクルだとする。

お問合せはこちら

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せはこちら

03-6214-2238

受付時間:9:00~18:00
お問合せフォームでのご相談は24時間承ります。

無料相談実施中!

お電話でのお問合せ

03-6214-2238

グローバル人材育成に関するご相談は無料です。

受付時間:9:00~18:00

プログラム受講者の声

F氏 A社海外事業部 異文化コミュニケーション論受講

自分の中で異文化だと感じたことに対し、仮説をたて検証してゆく作業がストレスを溜めない方法でもあり、異文化を前向きに受け入れられる最善の方法であるということが印象に残った。今までの自分の受け入れ方は、後ろ向きだったため、ぜひ実践したい。

K氏 B社 異文化コミュニケーション論受講

コミュニケーションに不安を感じていたが、海外でのコミュニケーション手法を学ぶことができ、少し自信がついた。4つのコミュニケーションスタイルを使い分け、早めに人間関係を構築したい。

M氏 E社 財務研修受講

決算書類のいろいろな個所で粉飾が隠され数字の判断の仕方次第で良くも悪くも解釈できることがわかりました。企業情報を普段からいかに多く入手するかがポイントで損害を被らないために有効かがよくわかりました。

ご連絡先はこちら

ユニバーサル・
ブレインズ株式会社

03-6214-2238

080-6586-9106

メールでのお問合せは24時間受け付けております。お気軽にご連絡ください。

お問合せフォームはこちら

〒103-0021 東京都中央区
日本橋本石町2-1-1
アスパ日本橋ビル312号

会社案内はこちら

人事担当者のための
情報サイト

人事担当者のための情報サイト、人事マネジメントフォーラムを開設しました。お役立ち情報満載です。ぜひご活用ください。

このサイトは、人事プロフェッショナルの方々のための広場・フォーラムです。

人事は、今や経営戦略策定の重要な一部となっています。そのような自覚をもつ人事プロフェッショナルのみなさんが必要とする実用的でグローバルな基本的情報を提供します。
戦略的に人事をとらえるときのヒントやピカッと光るビジネス情報が満載です。